ずっと前から君が好き
走り終わって体を起こしても、頭が痛くなったりはしなくてホッとしていると、銀と蒼太が立ち上がった。
「優也。俺ら、タオル取りに行ってくる。お前の分も持ってくるから、それまでゆっくり体を休めてろよ?」
「んじゃ、行ってくるねー!」
「おお、サンキュー!」
校舎の中に歩いていく二人を目で追いながら、返事をした。
俺は二人を待つため、座ったまま、まだ走っているクラスメイトを見ていた。
友達同士で仲良く話しながら走る子、ふざけ合って走る子、真面目に走る子、一人で走る子...。
いろんな子がいるな。
なんて思いながら俺は、唯のことを思い出していた。
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「ねぇ!優也ってば!走ろうよ!」
「僕は無理だよ..。唯だけ走ればいいじゃん。」
小学2年のときのこと。
運動会の練習が始まって、学校は活気に満ち溢れていた。
運動神経の良い唯は、クラスの中でもトップでエースだった。
そして、いつもああやって俺を走らせようとしていた。
だけどあの頃の俺は...。
「僕が走ってもどうせビリだよ。だから、練習したってイミないよ。」
自分に自信がなくて、言い訳して、そして..。
「そんなことないよ!優也はすごいって、私知ってるもん!」
「...!!」
いつだって唯に元気づけられていた。
そんな自分が情けなく思えた。
だけど、だからこそ俺は変わろうって思えたんだ。
それは全部、唯のおかげ。
だから...
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「会いたいなぁ..」
「誰に?」
「それは....え?」
後ろを向くと、確かクラスメイトの大石くんと、その友達の二人が、立ったまま首をかしげていた。
この状況からして、たぶん、いやおそらく絶対、俺は声に出してしまっていた。
急いで訂正しようと声をだそうとした瞬間、予想しなかった言葉が、大石くんの口からこぼれた。
「あのさー、ぶっちゃけ篠原くんってなんなの?」
「え....?」
俺の声にも耳をかさず、大石くんは続ける。
「病弱ぶって、他の奴の目をひこうとでもしてんの?」
ちがうよ。
「言っとくけどさ、それウザいだけだから。」
君がそう思うなら、それでいいよ。でも俺には..。
「宮田も、吉野も、こんな奴とツルんでさ、だっせー!バカじゃ--」
バゴォッ!!!
「うぁっ!?痛ってーなっ!!何すんだよ!!」
俺は無意識に、大石くんを殴っていた。
周りでは生徒たちが騒いでいたけど、そんなことどうでもいい。
だって、大石<こいつ>は今、俺の大事な友達をバカにしたんだから。
「おいっ!!聞いてんのか!!」
「ふっ、ざけんなっ...!!」
掴みかかってくる大石の腕を掴み返し、俺はもう一発拳をあびせた。
「うぐっ..!」
大石の小さな悲鳴に重なるように、苦しくなってきた胸に手をあてながら、俺はふらついている大石に叫んだ。
「..ハァ、ハァ..俺のことは、いくらでも..バカにしていいよ..!
でも、あいつらのことを..バカにすんのはっ!..ハァ、ハァ..許さ、ない!!」
「っ!....あ...あ...」
俺がそう言い終えた頃には、大石たちは後ずさりしながら俺から離れていた。
大石の怯えた顔を見て、もうあんなことは言わないだろうとホッとしたとき、
急に目の前が真っ暗になって、
あ..やべ...。
そう思ったときには遅く、俺の意識はそこで途絶えた。
「「..っや!優也!!」」
でも、意識がなくなる直前、聞き慣れた二つの声に、名前を呼ばれた気がした。