ずっと前から君が好き
こんな感じで入学してから一週間たった。
何度か授業を重ねていくうちに、勉強は難しくなるが、銀や蒼太と楽しくやっているから苦しくはない。
銀がバカやって、蒼太が怒り、それを俺が止める。
これが俺たちの日常になった。
今までこんな時間がなかった俺にとっては、楽しくてしょうがない。
だからいつも一緒にいたいと思うのだが...それが出来ないときがある。
「なぁ、優也。三時間目って授業なんだっけ?」
蒼太が椅子から立ちながら聞いてきた。
俺は、少し声のトーンを下げて答える。
「体育...。」
それを見て蒼太は、笑いながら言う。
「ははっ。そんなすねるなよ、優也。」
「だって、体育の授業とかは無理しないって意味わかんねーよ~...俺だってお前らと一緒に体育やりてーのに。」
俺が、左肘を机について仏頂面でそう言うと、蒼太は俺の肩を軽く叩きながら言った。
「まぁでも、無理しなきゃやってもいいんじゃないのか?今日も前回に引き続き、サッカーだけど、パスくらいだ...「ガタンッ!」
「っ!!マジか!じゃあやる!!行こうぜっ!!」
俺は蒼太の言葉を最後まで聞かず、
声を出しながら立ち上がって、蒼太と、いつの間にか起きてやる気満々の目をした、銀の腕を掴んだ。
「お、おい!?落ち着けって優也!そんな勢いよく動いたら駄目だろうが!」
「大丈夫だって!ほらっ!蒼太、銀、行くぞっ!」
「うん!!行こっ!行こっ!」
上から蒼太、俺、銀。
...という感じで、俺たちは他のクラスメイトたちより、
早く教室を出て、廊下に飛び出したのだった。
それから俺たちは凄まじい早さで、ジャージに着替え、グラウンドに来ていた。
「早く始まんないかな~♪」
鼻歌が出そうなくらい、ウキウキしながらそう言うと、準備体操をしていた蒼太がしかめっ面で言った。
「おい、優也。絶対無理はするなよ?」
「分かってるって!」
「ならいいけど...。」
まだ信用していない様子の蒼太の話を、軽く聞き流していると、俺の背中に誰かが飛びついてきた。
まぁこんなことをしてくるのは、一人しかいないから見当はつくが...。
「蒼は相変わらず、心配性だね~。大丈夫だよ、俺たちもついてるしっ!」
「銀!どこ行ってたんだ?」
銀は俺たちと一緒にグラウンドに着いたはずなのに、さっきまで姿が見えていなかった。
蒼太が聞くと、銀は右腕を上げ、人差し指で遠くにいる体育の先生...坂田先生を指さした。
「坂田先生に、優也の体のこと伝えに行ってたんだよ。
"あいつ体弱いんで、注意してやってください"って。
先生も"そういうことなら、わかったよ"だってさ!あの先生は優しいねっ!数学の先生よりも断然さ!笑」
あははっと笑いながらも、銀は俺のことを気遣ってくれて、それがすごく嬉しかった。
「ありがとな、銀!」
俺がそう言って笑ったとき、銀は少し驚いた表情を見せたけど、すぐに"いやいや!"とおどけて見せた。
俺たちが夢中で話している間に、授業の始まる鐘が鳴っていたらしく、
先生が胸元につけていた笛をピーーッと吹いた。
「じゃあ今から授業始めるよー!!まずは体操からー!」
その合図で俺たち生徒は、グラウンドに広がって体操を始める。
体操は好きな奴同士でできるから、俺はもちろん蒼太と銀と一緒に行った。
「「いっちにーさんっしー!!」」
グラウンド全体に掛け声が響き渡る。
こんな当たり前のことが、俺はたまらなく嬉しかったりするんだ。
「はい!!じゃあ次っ!グラウンドを男子は5周!女子3周、走ってこい!!」
「「うへー...」」
実に嫌そうな声が出る中、蒼太と銀だけは違っていた。
「おーしっ!蒼!!勝負しようよっ!どっちが早く走れるか!」
「ったく、しょうがないな!付き合ってやる!」
二人の面白い掛け合いを見ていたら、俺も走りたくなってきた。
だから俺は、今にも走りだしそうな二人に向かって、声を上げた。
「待って!!俺も行く!」
二人は勢いよく振り向く。
「えっ!優也、無理しないって約束じゃ---」
「そうだって!...やっぱ俺らも普通に走るよ---」
「大丈夫!!俺も走りたい。絶対無理なんてしないから。なっ?」
その二人の声にかぶせるようにして、俺は声を出した。
しばらく沈黙が続いたけど、蒼太がそれを破った。
「...わかったよ。でも、絶対の絶対、無理するな!いいな?」
「ああ!!ありがとな!」
俺が満面の笑みを浮かべて返事をすると、銀も大きくうなづいて、
二人は"よーい..ドンッ!"の合図で走りだした。
俺もその二人の背中を、必死になって追いかける。
みるみる二人との距離が遠くなっていくが、俺はそれよりも走れていることが嬉しくって、夢中で足を動かした。
昔はすぐに息上がってたのに!俺、変われたんだ...!!
そう思うと、さらにスピードが上がった気がした。
そして最後のカーブを曲がり、一直線の道を一気に駆け抜け、銀と蒼太が待つゴールに走りこんだ。
「「「っ!..ハァ...ハァ..」」」
三人とも息が整えるのに精一杯で、すぐには声がでなかったけど、グラウンドに転がって空を見上げてみると、すごく穏やかな気分になった。
そしてお互いに顔を見合わせ、わけもなく大笑いをした。