バターリッチ・フィアンセ
この頃の私は、そうやって自分を騙すことがうまくなってきた。
そして、今感じられる幸せを、たとえ小さなことでも胸に刻んで、自分を喜ばせる術も覚えた。
「……あー。 今日もよく働いた」
仕事終わりに伸びをする、無防備な昴さんはとってもカッコいい。
結び目を解いたタイを首からぶら下げて、コックコートの一番上のボタンを外していて。
帽子を脱ぐと、汗で濡れて首筋に張り付く髪がセクシーで。
閉店を済ませてお店から部屋まで戻る短い道のりの間中、そんな彼を間近に見られるだけでも私は幸せ者だと、ときめく胸を大切にあたためる。
一方通行の愛にはときどきそういう栄養補給が必要なのだ。
「――織絵、おいで」
家に帰って二人でくつろぐ時間も、私にとって幸せなひととき。
最近の定番は、昴さんが胡坐をかいた中に私がちょこんと座り、二人であたたかいコーヒーを飲みながらテレビを見たり、話をしたり、キスをしたり。
本物の夫婦ってこんな感じなのかな、と思わせてくれるこの時間が私はたまらなく好き。
だから、それを言葉にして、彼に伝える。
「昴さん……?」
「ん?」
「結婚して時間が経って、二人とも歳を取っても……こういう時間、大切にしたいです」
それを聞いた彼は、私の手の中にあったマグカップを奪ってテーブルに置くと、首を傾けて私の唇を塞ぐ。
「ん、ぅん――――」
穏やかだった時間に甘さが加わって、まだ昴さんがどう思っているか聞いていないのに、私はすぐ丸め込まれてしまう。
言葉は熱い舌に絡め取られて、吐息しか漏らせなくなって。
床に沈められたら、あとはもう、感覚だけの動物になって――。