バターリッチ・フィアンセ


パーティを二週間後に控えたある日の午後。

noixが空く時間を見計らったかのように、意外な人物がお客さんとしてお店に現れた。



「――お久しぶりです、お嬢様」

「真澄くん! いらっしゃいませ、どうしたの?」

「珠絵様からお嬢様に、これを渡すようにと申しつけられまして」



真澄くんが私に差し出したのは、大きなファイル。

なんだろう。お姉様から私にって……

とりあえずぱらぱらとページをめくってみると、そこに綴じられていたのは数々のドレスの写真。

もしかして、パーティー用の……?



「ここに載っているドレスはすべて押さえてあるそうです。あとは、織絵お嬢様のご希望を伺うだけだと」

「どうしよう……こんなにたくさんの中からひとつだけなんて、選べないわ」



とはいえ、やっぱり女として、素敵な服を見るのはやっぱり心が躍る。

レジ台にファイルを置いて、黄色もいいし、ピンクも捨てがたいし……あしらう飾りは、花かリボンか……なんて、真剣に悩み始める私。



「お嬢様。城戸さんはどちらに?」

「え? 昴さんなら厨房よ。彼に何か用事?」

「お嬢様のものに比べたらページはだいぶ少ないですが、彼にも衣装を選んでいただかなくてはならないので」



真澄くんの手には、言葉通り薄目のファイルがもう一冊。

そっか……当たり前だけどパーティーでは二人できちんと正装をして、大勢の前で婚約を交わすのよね。

そのことが今さらながら現実味を帯びてきて神妙な気持ちになる私に、真澄君はぽつりと言った。



「――それから、彼には少し個人的な話が」

「え?」



聞き返した時にはすでに、真澄くんは厨房の扉の向こうに消えていて。


私は少し釈然としないものを感じながらも、色とりどりのドレスの方に気を取られ、二人が何を話しているかなんて考えもせずに、呑気にページをめくっていた。


< 146 / 222 >

この作品をシェア

pagetop