バターリッチ・フィアンセ

しかし、一志はどうしても娘を守りたかったらしい。

勝手に俺の生い立ちや現在の生活状況を調べ上げると、ありとあらゆる妥協案――学費の援助だったり、パンの本場フランスへの留学の誘いだったりを、次々提案してきた。


もちろん俺は取り合わず、黙々と自分のやるべきことをまっとうし、場所を選り好みしなければ小さな店くらい構えられる貯金だってできた。


それなのに、俺が一志の持ちものである今のnoixの物件をタダで借り、店を開いたのか―――理由は二つある。


ひとつは、

『そんなことをされても、いつかあなたの娘を奪うという気持ちは変わることがないから無意味だ』

と、俺がいくら言ったところで、一志が“謝罪の気持ちだから”と言って、特に見返りを求めなかったこと。


そして、もう一つは……


たぶん、どっかから俺を見守ってくれているであろう母に見せたかったんだ。


こんないいトコに店を持ったんだって。

母さんが思ってたよりデカい店だろって。

親に褒められたいなんて思う年頃はとっくに過ぎているのに、ガキみたいに自慢したくて。


――結局、俺もそういう誘惑に弱いのだと知るのは決して気持ちのいいものではなかったけど、これはあの男が好きでやったこと。

俺はその厚意をただありがたく受け取っただけなのだと、自分を納得させていた。


だけど……



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