風の詩ーー君に届け
「Wunderbar!」




如月、妹尾、オケメンバーの顔が晴れやかで明るい。



「あの……」



マエストロの腕の中で、詩月がもがく。



やっとの思いでマエストロの腕から逃れ、詩月は深呼吸を繰り返した。




「まだだ。

良い演奏だったのは認める。

でも、キークス(ミス)がたくさんあった。

まだ完璧とは言えない」



詩月はマエストロを見上げ、ドイツ語で訴える。



マエストロは、穏やかに頷いて、「わかっている」と呟く。



「わかっているが、各々の思いは確かに1つだった。

これから最高のオケになる。

シヅキ、お前が導く。

頼りないオルフェウス、お前が。

だから『Wunderbar!』」


マエストロは肉厚の大きな手で、詩月の薄い色をした髪をふわりと撫でた。



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