風の詩ーー君に届け
「わかったんですか?」


訊ねたのは理久、声を荒げ険しい顔で間髪いれずに。


「どうだかな……彼は無粋な足音が過ぎ去り、聞こえなくなるまで、曲を奏で続けた。

震えて泣きながら。

怪我をした俺の姿や追手など、得体のしれない者に怯え、緊張して弾いていたのかと……。

ずっと思ってもきたが思い出すたび、違和感を感じていた」



「震えて泣きながら!?」




「そう。
関わりたくないなら、弾かずに無視もできたのに。


俺にとっては賭けだった。

ピンチを凌げるか否か。

彼にとっても、下手をすれば彼自身が危険にさらされる可能性もあった。


なのに……。

彼は何も聞かずに、ヴァイオリンを弾いた」



大二郎は5年前を懐かしむように、店の壁に張られたポスターに写る詩月を見つめる。
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