風の詩ーー君に届け
3章/ロマンス
5月の連休、詩月は意外なメンバーで小旅行をした。



幼なじみの岩舘理久(いわだてりく)と、大学ヴァイオリン科の先輩安坂貢で野郎3人電車で2時間。


小さな村の温泉は、乳白色でとろみのある水質だった。



失せ物の相があると、現れた占い師は陰陽道の術「九字」を施し、札を授けた。



名の知れた占い師との出会いは、どこかミステリアスで彼女の知識の広さに、詩月は感心した。



ヴァイオリンで有名なストラディヴァリウスは知っていても、他の作者は知らないのが普通だ。



が、彼女は「シレーナ」半人半鳥の妖女の名を冠したヴァイオリン、詩月の所有するヴァイオリンの特色まで知っていた。


野郎3人、花も色気もない2泊3日の休日。



詩月にとって日常の慌ただしさも喧騒も逃れ、一息つけた時間は得難い経験だった。



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