風の詩ーー君に届け
「騒いでどうなるものでもありませんよ。

今、僕にできるのはコンサートを成功させること、最善の演奏をする……それだけです」




「だが!!」



安坂が声を荒らげる。


詩月は、車を発進させる安坂をちらと見る。



スマホを上着に仕舞い、詩月は小さく息を吐く。




「信用されていないんです。

演奏を任せて大丈夫だと思ってもらえるだけの信頼がないんです。

それだけの演奏をまだしていないと、言われているんだと……それだけです」




淡々とした口調で詩月は言う。


穏やかに静かに、ヴァイオリンケースの柄をしっかりと握りしめる。




詩月は澄ました顔、固く閉ざした表情で進行方向を見つめる。




「お前がNフィルで演奏するようになって、客層が拡がったとも聞く。

観客もずいぶん増えたとも……それでも実績を残していないと?」




安坂が不満げに訊ねる。




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