風の詩ーー君に届け
交差点、信号待ち。


安坂は詩月の広げた楽譜に目を向け、息を飲んだ。



乱雑な文字で空白スペースがびっしり埋まっている。


落書きと呼ぶには、あまりに辛辣な言葉だ。


荒れた文字、その言葉に怒りさえこみ上げてくるが、言葉が出てこない。




「舞台の上で、これを見ながら弾きました。

……平常心を装い、何事もなかったように……楽譜だけ、音符だけに集中しながら」




詩月の声が震えている。




「弾き終え、舞台の袖へ引いた後……暫く、動けませんでした」




よく弾けたなと安坂は思う。


もし自分なら到底、あの演奏はできていないとも思う。




安坂は信号が青に変わり、再び車を走らせる。


かける言葉が見つからず、カーステレオのスイッチに手を伸ばした。




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