風の詩ーー君に届け
詩月は舌打ちをし、「承知しました」と打ち込み返信する。



画面を睨み、メールを受け取る相手の顔を思い浮かべる。




「安坂さん、弾きませんか?」



「周桜!?」



安坂は頼りなく、笑顔を向ける詩月の顔を不思議そうに見つめた。




「夕方のこの時間は、人通りも増えてくる頃です」




怒りを鎮めようと耐えて震える声、笑おうと努める瞳に涙が滲んでいる。




「安坂さん、ロマンス……ベートーベンの『ロマンス2番へ長調』弾けますよね!?」




「……ああ、」




戸惑いながら答えた安坂の手首をサッと掴み、出口へと向かう。




「ちょっ、周桜!?」




安坂は努めて明るく振る舞う華奢な後ろ姿を、健気すぎて哀しいと感じた。




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