ねこにごはん【完】



私にとって菊地原くんという生き物は、それはもう最大の癒しであった。

現在A組である彼に対し私は離れたところに教室があるD組。
屋外で練習するサッカー部である彼に対し、私は体育館を使用するバレーボール部。
ゆえに中々機会に恵まれず未だマトモに接触したことはないものの、距離を置いた場所から拝んでいるだけで目の保養になる、あの愛らしい容姿を生み出してくれた彼の両親には感謝してもしきれないほどである。

私が菊地原くんを見る時の眼差しは、基本的に猫を愛でる時と同じ感覚だ。
彼の頭やお尻には常に猫耳や尻尾の幻覚が見え、部活でサッカーボールを追っている光景なんかは猫が毛糸の玉を転がしているかのようにすら置き換えられた。
それだけ菊地原くんの仕草のひとつひとつが猫のように愛くるしいのだ。

あのやや釣り上がった目尻とか、それに対照的なハの字の眉とか、いつも何か悪事を企んでいるかのようににんまりと曲げられた口元とか、猫の毛のように柔らかそうなくせっ毛の髪の毛とか、全てが可愛く見えてしまうのは私が完全に彼の虜である証拠だろう。
ただ、それは恋とは似て非なるものであった。
言ってしまえばラブとライクの違いだろうか。

私が菊地原くんに向けている感情は恐らく後者だ。
猫と同等の目で見て、ひたすら彼の可愛さに悶えているだけなのだから。
もちろん菊地原くんに近付きたいと考えたことは幾度もあった。
けど遠くから眺めているだけでも十分満足に至っている辺り、やはり私が彼に向けている感情は恋心ではないと悟っていた。
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