喩えその時が来たとしても
「だって哲也、考えてもみて。また波長のせいでお兄様と会話出来ないかも知れないのよ? そうなったら、私が居なきゃ運袋の事について何も解らないのよ?」
なるほどそれは一理有る。だが必ずしもペットショップの中が安全だとは限らない。凶暴化した犬が馬場めぐみの喉笛を咬み千切るかも知れないし、昨日の余震で積み上げてあるケージが崩れ落ちてくる恐れだってある。
とにかく。俺と一緒に居るのは危険が伴うのだ。その可能性が払拭されない限り、彼女とは行動を共にするべきではないのだ。
「俺だってめぐとは一緒に居たい。でも今は出来ない。だがそれも後少しの辛抱なんだ」
じゃあ連絡先位教えなさいと、年下とは思えない程の威圧感で迫られた俺は、仕方なく馬場めぐみとスマホを『フリフリ』し合った。
これでもう逃げも隠れも出来なくなった訳だが、運袋を塞げばそんな心配の必要もないのだ。思う存分一緒に居られるのだ!
「じゃあめぐ、吉報を待っててくれ」
そうして馬場めぐみと別れ、ペットショップに入った俺は、そこで一目惚れした海老茶色のラブラドールリトリバーを購入した。当の仔犬は眠ってしまっていたが、ハムスターの時もそうだったから、転生する為の一連の行動に違いない。
しかし、眠っている兄貴を運ぶ為の高価なキャリング·ケージや、その他の玩具等も売り付けられて、すっかりここの売り上げに貢献している俺が居た。
「毎度どうも。有り難うございました」
そりゃ有り難いだろうさ。ひと月と空けずにもう一匹犬を買うなんて、上得意にも程がある。お陰で前の現場で戴いた報償金はスッカリ底をついてしまった。
「よろしく頼むぞ、兄貴」
スヤスヤと気持ち良さそうに寝ているラブを覗き込み、そう呼び掛けた。
「ただいま~。買ってきたよ」
「はいはいお帰り、哲也」
家に戻ると、父は仕事なので居なかったが、母がそそくさと出迎えてくれた。
「雅也が……この子が雅也なの?」
母はまだ信じられないという様子でケージの中を恐る恐る覗き込んでいる。
「今は眠っているけどな。目が醒めたら兄貴と入れ替わっている筈だ……ああ、そろそろ起きるかな」
ケージの中で眠っていたえび茶色の仔犬が、もぞもぞと身体を動かし始めている。
「おい兄貴。家だぞ、母さんも居る。起きろ」
「そんなに邪険にするもんじゃないよ、哲也」
母はソワソワはらはらしながら俺の周りをウロウロと歩き回っていた。