ロスト・クロニクル~後編~

 エイルはアルフレッドからハサミを借りると、恐る恐る羊の毛を刈ってみる。いくらアルフレッドのやり方を見ているとはいえ、コツを掴めたわけではない。羊の肌を傷付けてはいけないと毛の表面部分を刈っていくが、これではいけないとアルフレッドから注意を受けてしまう。

 固定しているので、ちょっとやそっとの衝撃で羊が逃げ出す心配はない。だから気合を入れて毛を刈っていこうと促されるが、エイルはアルフレッドのように図太い神経の持ち主ではないので、やはり躊躇いの方が強く促されてもちょびちょびと毛を刈るしかできない。

「それで、面白いか?」

「面白いよ」

「もっと、ザクっと刈る」

「お前のように、大胆にはなれないよ。僕はこれで十分だし、やったことがないから面白い」

 あくまでも自分のペースを保ちたいというのだろう、毛の表面部分だけを切っていく。ただ別の意味で几帳面の性格の持ち主なので、毛の表面は綺麗に切り揃えられている。全ての毛を刈られた後の細い身体の羊とは違い、これはこれで別の生き物のように見えなくもない。

「お前の性格が表れている」

「そうか?」

「普通、このような刈り方をしない。それにこの刈り方をしていると、材料として足りないぞ」

「材料として使う気だったのか?」

「言わなかったか?」

「言っていない」

「あれ? 言ったような気がしたんだが……まあ、いいか。刈った毛を使って、小物を作る」

 アルフレッドの説明にエイルは納得する素振りを見せるが、毛の刈り方は相変わらず。彼の刈り方が見ていられなくなったのか、アルフレッドはハサミを奪い取るとせっせと毛を刈っていく。慣れているだけあって作業速度は速く、瞬く間のうちに羊の身体から毛がなくなっていった。

「奪うな」

「やる気が感じられない」

 そのように言われるが、エイルはやる気がないわけではない。自分のペースを保って行っているだけであってアルフレッドに指摘されたくないと言い返すが、一方のアルフレッドは自分のやり方と大幅に違うことにこそばゆさを感じるのだろう、エイルからハサミを奪い取る。
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