ロスト・クロニクル~後編~

 エイルはハサミを奪い取られたことに呆然となってしまうが、彼に任せた方が何倍も時間短縮となると判断したのだろう、生暖かい視線を向けながら眺めている。流石手馴れているというべきか、瞬く間のうちに毛が綺麗に刈り取られ、羊は肌色の皮膚を二人の前に晒す。

「凄い」

「お前が遅い」

「そうか」

 あくまでも自分のペースで毛を刈っていただけであって、アルフレッドのペースに合わせる必要はない。それがエイルの意見だが、これはこれで面白かったという。また、いい気分転換になったので、最初は嫌がっていたが牧場に連れて来てくれたことは感謝していた。

「それならいい。で、どうしたんだ?」

「何が?」

「あの時だ」

「……国の将来を考えた」

 内に秘めていた心情をアルフレッドに話すべきか躊躇うが、自分の弱った精神を癒すということで実家の牧場に案内した。その裏側に隠されていた理由は自分の都合によるものだが、これにより精神面が安定し、尚且つ滅多に体験できない羊の毛刈りを行なうことができた。

 エイルは苦笑した後、どうしてあのようになってしまったのか淡々と口調の中で話していく。自分の一族は代々王家に仕えており、人一倍王家に対しての思い入れは深い。特に親衛隊の前隊長であるフレイも、女王シェラが精神を病んでいることについて頭を悩ましている。

 時折、父親から国の将来に付いて話された。このままで大丈夫なのか、どうすればいいのか。シェラは、復活を果すのか。そして、隣国のエルバード公国の動向。シェラを目の前にした途端、それらを思い出してしまった。だからあのようになってしまったと、アルフレッドに話す。

「そういうこと、言っていたな」

「忘れたのか?」

「お前が貴族のお坊ちゃんというのは、覚えているぞ。俺の両親には、きちんと説明をした」

「でも、細かい部分は忘れている」

 痛い部分を突かれ、アルフレッドは押さえ付けていた羊を離してしまう。解放されたことによって羊は自由を得て、仲間達がいる方向に駆け出す。その後姿を視線で追いつつエイルは微力でもいいから父親の役に立ちたいと話すが、現実的にそれが難しいことも知っていた。
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