ロスト・クロニクル~後編~

 両親に対しあれこれと言っているが、内心では心配しているのだろう。エイルはアルフレッドの表情の変化に、彼の本音に気付く。がさつながら、両親を心配しているアルフレッド。実はいい人物ではないかと言葉では相手を褒めないが、心の中で彼のいい面を評価する。

 次にアルフレッドが案内したのは、多くの牛が飼育されている場所。肌の色は全体的に茶色で、四肢の先だけ白い。また身体のサイズに比べ黒い目は小さく、これはこれで愛らしい。これらの羊の種類は〈ジャージー〉と呼ばれ、品質の良いミルクが取れるとアルフレッドが説明する。

「僕が飲んだ、あれも?」

「美味かっただろ?」

「濃厚だった」

「昔から、俺の実家の牧場の酪農品は……」

 相当自信があるのだろう、牧場の酪農品を自画自賛していく。聞き方によっては鬱陶しいものだが、今回のアルフレッドの自画自賛については特に耳障りではなく、どちらかといえば聞いていると面白かった。そしてエイルは彼の話に合わせるように頷き返し、一方的に喋らす。

「で、今回も……」

 話を中断させるにいい部分を見計らい、エイルはジャージーの乳搾りについて質問する。勿論、羊の毛刈り同様に乳の搾り方は知らない。だから、今回もやり方を教えて欲しいと頼む。エイルの頼みにアルフレッドは快く了承し、乳搾り用の牛を捕まえに行くと言い出す。

 その後、羊の毛刈りと違い乳搾りはそれほど時間が掛からず、スムーズに行うことができた。アルフレッドもエイルの性格を尊重すると最初は言っていたが、やはり途中で我慢できなくなったのだろう、乳搾りで使用していた道具を奪い取り、自分で乳を搾り出す始末。

 エイルはこのことを予期していたのだろう、道具を奪い取られても文句はいない。ただ静かにアルフレッドの乳搾りの光景を眺め、乳搾りが終了するのを待つ。選んだジャージーは相当のミルクを体内に蓄積していたのだろう、用意した木製のバケツがいっぱいになってしまう。

「これも加工するのか?」

「勿論」

「大変だな」

 物が売っている店に行き、金品を支払えば物を得ることができる。しかしその裏側には多くの労力があり、彼等の働きによって生活が成り立っているといっていい。これはメルダースの授業では学ぶことができず、実際に体験したらこそ美味しい物を提供してくれる者達に感謝しないといけない。
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