ロスト・クロニクル~後編~
一通りミルクを搾り終えると、木製のバケツを持ちアルフレッドは両親のもとへ帰るという。それに同調するかたちでエイルも頷き返すが、先程から何かが引っ掛かって仕方がない。暫くするとそれが何か思い出し、エイルはアルフレッドに羊の毛は持っていかないのか聞く。
エイルの指摘に自分が刈った羊の毛のことを思い出したのだろう、アルフレッドは絶叫に似た声音を上げる。慌ててミルクが入った木製のバケツをエイルの渡すと、集めた羊の毛が置かれている場所へ駆け足で向かう。取り残されたエイルはバケツを持ち直すと、彼の後を追う。
「あったか?」
「一部、飛んでいた」
「いいのか?」
「多分、大丈夫だ」
「お前がそう言うのなら心配ないが……」
アルフレッドは大丈夫と言っているが、エイルにしてみれば大丈夫とは思えない。彼が抱えている毛の量は刈った時より明らかに少なく、周囲には毛の塊が点在し風に吹かれ転がっている。それらに視線を向けているエイルにアルフレッドは咳払いすると、其方を見ないでと無言で訴える。
滅多に見られない視線で見られると、深く追求するわけにはいかない。暫く考えた後エイルもアルフレッド同様に咳払いすると、彼の提案を受け入れることにする。素直に聞き入れてくれたことにアルフレッドは歯を出して笑うと、鼻歌を歌いながら戻って行くのだった。
その後、酪農品を使ってアルフレッドの両親が手馴れた手付きでそれらを加工していく。このような加工現場を見たことのないエイルにとってどれもが新鮮に写り、時折感心したような間延びした声を出す。これも彼にとってはいい勉強で、新しい知識のひとつとなった。
エイルは途中で好奇心が疼いてくるが、邪魔になってはいけないと手は出さない。ただアルフレッドの両親の側で加工している光景を眺め、知識の量を増やしていく。一方、アルフレッドは加工の手伝いをせず、エイルと同じように両親の作業風景を側で見守るのだった。
「おい」
「何?」
「手伝え」
お客様のエイルが側で見ていても構わないが、自分達の息子が側で見ていていいとは言っていないと、アルフレッドに作業の手伝いをするように命令する。最初は渋っていたが両親の手伝いをしたいという気持ちがないわけではないので、言葉では「仕方がない」と言っても、内心はやる気だった。