ガラスの靴じゃないけれど


そんなことを考えながらチラリと視線を上に向けると、彼は少しだけ口角を上げて私のことを見つめていた。

今日、出会ったばかりの人にお姫様抱っこされて、しかもこんな至近距離で視線が合ってしまうなんて、恥ずかし過ぎる。

ドキドキと高鳴る鼓動をなだめながら、私は慌てて彼から視線を逸らした。

でも......。

「オマエ、初めてだろ?」

「はい?」

「だから、そんなに顔を赤くするってことは、男に抱かれるのは初めてなんだろって聞いてんだよ」

彼に指摘されて、初めて気付く。

自分の顔が、火照っていることを......。

でも初対面の彼に向かって『はい。初めてです』と白状する気など1ミリもない。

「へ!変なこと言わないでください!」

「ふーん。図星か」

白い歯をチラリと見せながら笑みを浮かべる彼は、もしかしてこの状況を楽しんでいるの?

どこまでも意地悪な彼の言葉は、私の顔だけではなく身体全体を熱くさせた。


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