ガラスの靴じゃないけれど
彼が足を一歩進めるごとに、ユラユラと身体が揺れる。
その振動は嫌なものではなく、むしろ心地が良い。
お姫様抱っこしてくれているのが、この響という男ではなくて、望月さんだったら良かったのに......。
つい、彼氏である望月さんのことを思い出してしまった私は、彼の言葉で我に返った。
「着いたぞ」
「え?もう?」
「ああ。だって俺の家、ここだから」
そう言った彼は、お姫様抱っこをしていた私を下ろすと、ポケットから鍵を取り出した。
片足で立ったまま振り返って確認したのは、彼が家だというこの場所から山本時計店までの距離。
歩数にしたら、わずか20歩ほど?
つまり、彼はこの光が丘駅北口商店街の住人であり、山本時計店のお向かいさんであるということが判明した。
ガチャガチャと鍵を開錠した彼は、丸いドアノブを回すと木目調の扉を開ける。
そして足音を響かせながら家の中に入ると、パチリと明かりをつけた。