ガラスの靴じゃないけれど
今まで口元に笑みを浮かべながら、祖母は昔の出来事を懐かしむように語っていた。
けれど深くため息を付くと、その表情を曇らせる。
「でもね。フィレンツェに帰るバスの時刻が迫ってしまって......。彼が戻って来る前に、母が買い求めてきたサブリナシューズを履いてシエナを後にしたのよ」
彼のお爺様がパンプスの修理を終えて戻ってきた時、どうして彼女の姿が消えていたのか、これで明らかになった。
今までひと言も発することなく黙って話を聞いていた彼は、パンプスが入っていた箱の中から色褪せたポストカードを取り出すと祖母に差し出す。
「これに見憶えはありませんか?」
差し出されたカードを受け取った祖母の頬が、一瞬のうちに桃色に染まった。
「まあ!どうしてこれをあなたが?」
驚きの声を上げた祖母から質問された彼は、言葉に詰まりながらも答えを口にした。
「シエナであなたに声を掛けた靴職人の男性が私の祖父だからです。修理を終えて広場に戻ってみると、あなたの姿はなく、ベンチの上にこのカードが置かれていたと聞きました」