ガラスの靴じゃないけれど
この店に来る前に、彼は色気がない私を襲わないと、確かに言った。
それなのに、今さらそんなことを言い出すなんて......やっぱり男はオオカミなのね。
こうなったら、ここから裸足で逃げ出すしかないかも......。
そんなこと考えていると、彼の冷ややかな声が耳に届いた。
「バーカ。服じゃねえよ。左足に履いているパンプスだよ」
勝手に勘違いしてしまったことを恥ずかしく思いながら、左足のパンプスを急いで脱ぐと、それを彼に大人しく手渡した。
手にした私のパンプスを、あらゆる角度から見つめる彼の瞳は真剣そのもの。
「メイド・イン・イタリーか。学生にしては贅沢だな」
確かに童顔の私は、未だに学生と間違われることが多い。
でもここは、私も真剣に否定をしてみせた。
「あの!こう見えて私は25歳の立派な社会人です!」
「は?マジで?」
「はい。マジです!」
ついさっきまでは脇目も振らずにパンプスを凝視していたくせに、今の彼は瞳孔が開きそうな勢いで目を丸くして私を見つめている。