ガラスの靴じゃないけれど


今は取り壊しがすべて終わり、その場所は工事現場の白いシートで囲まれていて中の様子を窺うことはできない。

現場近くに車を停めた彼は懐かしむように、光が丘北口商店街があった場所を見つめる。

「あれだけ再開発に反対していたのに、今はビルが完成するのが待ち遠しいなんて勝手だよな」

彼がそんなことを言う理由は、ただひとつ。

再開発プロジェクトが終わるまで、私は彼と結婚するつもりがないからだ。

彼は私との結婚を、強く望んでくれた。

でも、再開発プロジェクトはまだ終わっていない。

途中でヘルプの仕事を投げ出すことが嫌だった私は、週末だけ彼の元に通う生活を選んだのだ。

「響さん。わがままを言ってごめんなさい」

「若葉が謝る必要はない。それにどんなに待たされても、俺の気持ちは絶対に変わらないからな。その証拠として...ほら。手を出せ」

言われるがまま、手相を見てもらうように手のひらを差し出した私を見た彼は、大きな声を上げて笑う。


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