ガラスの靴じゃないけれど


あと一時間で、定時の18時を迎える頃。

松本チーフがファイリングをしている私の元に、近寄ってきた。

「一条さん。急で悪いんだけれど、明日、休日出勤をお願いできないかな?」

『明日』と聞いた私の頭に浮かんだのは、ある催し。

「もしかして住民説明会ですか?」

「明日、説明会があることを知っていたのか」

「説明会の冊子を作成しましたから」

つい、先日、私は光が丘駅北口商店街再開発事業案という、難しいタイトルの資料を作成したばかり。

そこには、明日の18時から住民説明会が執り行われることが記載されていた。

「実はその住民説明会の受付を、一条さんに担当してもらいたいんだ」

再開発プロジェクトのことを詳しく知らない私が、受付をして大丈夫なのだろうかと一瞬、不安になった。

でも雑務しかこなせない私に受付を任せてくれたことが嬉しくて、不安なんかあっという間に消え去る。

「はい!是非、やらせてください!」

松本チーフはホッとした表情を浮かべると、一転して豪快な笑顔を私に向ける。

そんなに喜んでくれるとは思ってもみなかった私の頬も、自然と緩んだ。


< 60 / 260 >

この作品をシェア

pagetop