13年目のやさしい願い


「これ、わたしが作った……」

「そう。思い出した?」



一ヶ谷くんは手のひらの上で、ドングリで作った素朴なコマを転がした。



あの時の一ヶ谷くんは、坊主頭で、もっとずっと幼い雰囲気だった。

今とはずいぶんイメージが違う。



「陽菜ちゃんが、院長先生の孫だって聞いて、

杜蔵学園に通ってるって聞いて、

オレ、本当はね、陽菜ちゃんを追いかけてきたんだよ」



わたしの目を真っ直ぐに見つめて、一ヶ谷くんが言った。



「相思相愛の幼なじみの恋人がいるってのも、聞いてた。

看護師さんにさりげなく聞いたらさ、笑って、陽菜ちゃんはムリよって言うんだもんな」



一ヶ谷くんの口もとが、自嘲気味にゆがんだ。

< 335 / 423 >

この作品をシェア

pagetop