13年目のやさしい願い
「……あ、じゃあ、入学式の日は、」
わたしが小さく呟くと、一ヶ谷くんは首を横に振った。
「違う。あれは偶然。……オレの親、杜蔵学園大学の先生やってんの」
「大学の?」
「そう。だから入学式の日、車寄せがある裏口に下ろしてってくれたんだ。
駐車場使えるからって車で来たんだけど、大学の駐車場から高等部まで戻るより楽だろうって」
「……そうだったんだ」
あまりに唐突だった一ヶ谷くんの告白。
わたしの手を迷うことなく取った一ヶ谷くんの笑顔が、脳裏に浮かぶ。
「オレ、一目惚れしたみたい!」
「陽菜ちゃん、オレと付き合って!」
無邪気に見えた一ヶ谷くんの笑顔。
その裏に、他の何かが隠されているなんて、思いもしなかった。