13年目のやさしい願い
「冗談冗談。困った顔しないで」
それから、一ヶ谷くんは小さくため息を吐いた。
「って、そんな話をしてる場合じゃないね」
急に真顔になった一ヶ谷くん。
その「そんな話をしてる場合じゃない」という言葉が、ふと頭に残った。
「……あ!」
「え? 何? どうしたの?」
「一ヶ谷くん、学校は!?」
そう。一ヶ谷くんも制服を着ていた。
カナが遅刻しないように出た後に来た一ヶ谷くん。
少し前に、始業時間を過ぎてしまった。
「あはは。何かと思った。大丈夫。学校、電話しといたし」
「……なんて?」
「登校途中に腹が痛くなったから、トイレ寄って行きます。遅れるけど心配しないで下さい」
「……トイレ、って」
「これならダメって言えないでしょ?」
真顔で言われたその言葉がおかしくて、思わず声を上げて笑ってしまった。