13年目のやさしい願い


「さあ、食べるわよ!」



いつ呼び出されないとも限らない。

まだ寝ぼけているわたしを尻目に、ママは気合い十分、お弁当の包みを開いた。



「あ。今日のお弁当、畑野(はたの)さんだ」



お弁当の蓋を開けて、ママが顔をしかめた。

畑野さんは沙代さんの他、もう一人いる若いお手伝いさん。

何年も前から通って来ているけど、お料理の腕は、沙代さんの方が上で、ママは断然、沙代さんのお料理が好きだ。



「沙代さんのご飯のが美味しいわよね?」

「……畑野さんだって十分上手よ?」



思わず、そう言うと、ママはしまったと言うかのように肩をすくめた。



「はい。……感謝していただきます」



別に叱ったわけでも、たしなめたわけでもないのに、と思わずクスッと笑ってしまう。

お料理もお裁縫もお掃除も、いわゆる家事と呼ばれるようなものは全般的に、ママは苦手だ。

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