13年目のやさしい願い
ピピピピピッ
不意に、ママのポケットで、院内PHSが音を立てた。
「はい。牧村です」
呼び出しだ。
「……はい。分かりました。すぐ行きます」
ママは電話を切ると、わたしに向き直った。
「ごめん、陽菜。急患。行かなきゃ」
「うん」
「……っと、誰か、」
と、ママは周りを見回した。
わたしが、病室さえ教えてもらえたら、自分で行けるし大丈夫だと伝えようとしたところで、ママは声を上げた。
「ちょうど良いところに来た。浅木くん!」
浅木?
ママの視線の先を見ると、そこには真新しい白衣を着た若い男の先生がいた。
「はい?」
「悪いけど、この子を特室Aに連れてって、しばらく一緒に様子見て」
と、ママは絵本が入った手提げ袋を押しつけるように渡した。