聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「なら……ずっと夢だったことを、今、叶えてほしい」

「夢…?」

「ああ。14歳のあの日から、ずっと夢だったことだ…」

「それはいったい…?」

「…なんだと思う?」

みつめあう二人の視線がとろける。

二人は甘い予感とともに瞳を閉じていく…。

やがて二人の唇に優しい感触がおとずれた。

それは二人の心をどこまでも震わせ、はかりしれない喜びを湧き上がらせる、魔法のような感触。

永遠の宝物にしたい一瞬だった。永遠の宝物になるだろう一瞬だった。

そっと唇を離しながら、ああ、とカイは吐息をもらした。

「やっと……夢が叶った……」

この日を、どれだけ待ち望んだことか。

ゆっくりと長いまつげを持ち上げるリュティアの表情のなまめかしさが、もっと激しく、体が痺れるまで唇を奪いたい衝動をわきおこす。けれどカイはぐっとこらえる。

今はもっと大切なことがあるからだ。

言わなければならないことがあった。

伝えなければならないことがあった。

「リュー…私は、お前を」

それはヴィルトゥスが、最期まで、伝えられなかった言葉。

「愛している…誰よりも何よりも、愛している」

「カイ…」

リュティアの瞳からまた涙がこぼれおちる。

それは幸福の涙だとカイにはわかっている。

だから、万感の思いを込めてカイはささやく。

「私の…花嫁に、なってくれるか」

この時のリュティアの笑顔を、カイは一生忘れないだろう。

美しい幸福の涙に彩られた、間違いなく今までで最高の笑顔を。

「はい…!」

散る桜が、新しい季節の到来を告げる。

輝く季節の到来を。

春風に乗って、抱き合う二人に降り注ぐその桜色の雨。

それはまるで花嫁に祝福を与える花吹雪のようだった。
< 168 / 172 >

この作品をシェア

pagetop