聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~奇跡の詩~
「あんたサーレマーの兄だろう。あいつ、広場で戦ってたら邪魔してきたことがあるんだよ。広場は子供の遊び場、子供たちにぶつかると危ないとかなんとか言ってな。うぜぇやつだったぜ。女みてぇなこと言いやがって、斧ひとつ満足に扱えやしない腰ぬけだ。あんなやつの兄の言うことなんか、誰が聞くか」

「サーレマーが」

初耳だった。

子供たちをかばって立つサーレマーの姿が目に浮かんでアクスは場違いにも胸が熱くなる。サーレマーは戦いより祈りと平和を愛したのだ。そういう子だったのだ。

別の男がアクスに向けて斧を振りかざしながら言った。

「そんなに祈ってほしけりゃ武術大会で優勝して、皆に祈るよう願うことだな。男たちは強い奴にしか従わない。祈りなんてかったるくてやってられっか。なんなら今戦うか。腰ぬけの兄なんてちょろいもんだ」

ここに集まる男たちはすぐにこうして力を見せつけたがる。

いくら挑発されても、アクスに戦うつもりはなかった。戦うつもりならとっくにこんな男たちなどぶちのめしている。

だがそういった方法はとりたくなかったのだ。サーレマーが平和を愛したからというのも理由の一つだが、それよりもそんな方法で彼らを本心から祈らせることはできないと思ったのだ。

しかし二週間、通い詰めて言葉だけで説得しても効果はなかった。アクスは今日も何の成果もあげられぬまま訓練場をあとにせざるをえなかった。
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