私と彼と――恋愛小説。
時間を調整して谷女史と共に会社を出た。打合せをしようにも展開は佐久間の出方次第で、必然的に会話も限られてしまう。


タクシーが指定の場所に到着すると編集長は私を見て頷くみたいな素振りをする。


「さあ、行くよ加奈子。とにかく〈カヲル〉は目玉なんだ、多少の無理言われても仕方ない」


編集長の言う通りだった、話題性からも〈カヲル〉は欠かせないコンテンツなのだ。


「来たね、加奈子ちゃん」


スタジオの扉を開けると、昼間と同じ格好で佐久間が私達を迎えた。余裕の無かったあの時より冷静に佐久間を観察出来た。


すっきりとした顔立ち、細くて小柄ではあるけれどバランスが良い…何を考えているのだろう…私。


「初めまして、編集長の谷と申します」


「どうも、ご足労いただいて申し訳ありません。佐久間です」


私の時とは大違いの態度だった。きっちりと頭を下げて名刺を渡す。少しムカつく…


営業スマイルだとわかるけれど、にこやかな笑顔を向けて、こちらへどうぞと先に歩き出した。


悔しいけれど綺麗な背中と歩き方だと思う。


幾つかの扉を通り越して、佐久間が扉を開けると見慣れた光景が見えた。


カメラマンにスタイリストらしき女性…


「撮影中ですか?お邪魔なら出直しますけれど」


谷女史の言葉に佐久間が笑う。


「それは困るな。このためにスタンバイしてるんですからね」
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