私と彼と――恋愛小説。
打ち合せにもならずに恭子の事務所を出る。どうせこの流れなら夜には会えるのだから良しとしよう。


編集部のドアを開けると、揉め事が待っていた。


すかさず部下の希美子が私をドアの外に押し出す。


「加奈さん、今戻らない方が良いです!」


同時に部屋の中から声が飛ぶ。聞き覚えのある低音の大きな声だった。


「おい!加奈子!逃げるな」


以前の上司、佐伯だ。調子の良い男…二年前まで私の男でもあった。少なからずその事実は社内でも知られてしまっている。


別に不倫関係でもない、ただ単に奴が別の女を選んだだけの事だった。


結婚も考えた時期もある。奴が出入りする代理店の営業に手を出し逃げられなくなる前の事だけれど…


「大丈夫よ。で、何を揉めてるのよ」


「アレですよ〈カヲル〉の件です」
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