私と彼と――恋愛小説。
なる程ね、と思う。佐伯はうちで安定した発行部数を誇る経済誌に居た。


後少しで編集長まで昇りつめる矢先、女癖の悪さで失脚したのだ。手を出した代理店の女に迫られて結婚したものの、素行は相変わらずだった。


浮気相手が会社に乗り込み、わめき散らし大騒ぎになった。


それは大した事ではない。問題は結婚した代理店の女の方だ。大手の代理店に勤める社員には幾つかの種類がある。


高学歴や語学力や留学経験を武器に実力で入社する者。入社するのと同時に会社に仕事を持たらす者。


佐伯の結婚相手は後者だった。要するに大手のスポンサー絡みの娘なのだ。


代理店も出版社も一番怖いのはスポンサーの存在だ。どれだけ硬派を表に出していても、現実は甘くない。


離婚されてレディコミの部署で四苦八苦していると聞いて、いい気味だと思った事もあった。


「あら、人聞きの悪い。何かご用ですか?佐伯さん」
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