恋ごころトルク


 財布から千円札をテーブルに投げ、あたしはリュックを掴んでカフェ出入口へ走った。

「真白ちゃん!」

 ごめん、千里さん。あたし行かなくちゃ。行かなくちゃ。
 転がるように階段を降りて、店の外へ走り出る。出た左手に数人の人だかりと、救急車。あたしも救急車に駆け寄った。ちょうど担架が中に入るところだった。見ると、救急車には店長も乗り込むところで、あたしは「店長!」と声を張り上げた。その声に、店長は振り向いて、あたしに気付いた。

「え? ああ」

「光太郎さん! どうしたんですか?」

 下がってくださいと、救急隊員に制される。いやだ、離してよ。

「怪我したんですか?! あたしも行きます!」

 分かってるわ。なんで、身内でも無いのに。救急車に乗って行けるわけが無い。乗り込んだ隊員の背中が邪魔で、光太郎さんが見えない。足しか見えないよ。赤いつなぎの、足しか見えないよ。

「お弁当屋さん、落ち着いて!」

 隊員が乗り込んだあと、あたしの腕を掴んだのは、同じく赤いつなぎの、ミナセスタッフさんだ。サクラクックに来てくれたことがある人。


 なによ、お弁当屋さんって。それどころじゃないの、光太郎さんが、光太郎さんが。


「光太郎の実家の連絡先、調べとけ。あと、病院着いたら電話するから、その子にも搬送先を教えてやって!」

「分かりました」

「光太郎さん!」

 バン! 耳に響く音がして、救急車のドアが閉まる。けたたましいサイレンを慣らして、救急車が国道に出て行く。あたしは追いかけた。スタッフさんに制止されても、乗れない救急車を、追いかけて……。

「こうたろ……さ……」

 サイレンも救急車も遠ざかって、行ってしまった。

  *

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