恋ごころトルク

「……」

 白い病室は、4つベッドがあって、入口を入ってすぐ右側に光太郎さんが眠るベッド。対角線奥にカーテンが閉まっているベッドがある。どなたか眠っているのね。静かにしなければ。

 観念して、光太郎さんが目覚めるまで居ることに決める。あたしで良いのかは甚だ疑問だけれど、目覚めた時に知ってる顔が居た方が、少しは良いだろう。

 音を立てないように、リュックを床に置いて、立てかけてあったパイプ椅子を出して座った。ギシッという音が耳障りで、椅子に向かって「しー」とやってしまった。

 とにかく。目覚めるまで居よう。このまま光太郎さん1人置いて行くわけにもいかないし。

 すうすうと呼吸する音が聞こえる。気持ち良さそうに、眠っているね。

 良かった。重い怪我じゃなくて。風邪ひきの熱は高いんだろうか。少し頬が赤いような気がするけど。

 つなぎは脱がされたようで、病院で着せられたと思われる、薄いグリーンのパジャマ姿だ。両腕は薄いタオルケットの上に出されている。

 眠っている光太郎さんの顔。こんな風にして寝顔を見ることになるなんて、思わなかったな。

 最初は、仲良くなるだけでじゅうぶんだったのに。欲は歯止めが利かない。

 強引に告白して、想いのままに光太郎さんに会いに行って。相手の、光太郎さんの気持ちって考えたことが無かったかもしれない。ぶつけるだけぶつけて。

 あたしってこんなに自分勝手だった? 自己中心的な恋なんて、光太郎さんにとって重いだけだったろうに。

 過去なんて関係無いけれど、あたしに、光太郎さんの、その深い部分に触れる権利は、きっと、無い。


 あたしは、光太郎さんの側に居られないんだろう。一緒に居られないんだろう。彼がそう判断したんだ。「俺と居てもつまらないぞ」って、それは光太郎さんの気持ち。

 自分の気持ちを伝えて、相手の気持ちも聞いた。それで通じ合わなければ、それで終わりなんだ。分かってることじゃないの。

< 109 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop