恋ごころトルク
「あのさ」

 背を向けて、病室のドアに手をかけた時だった。光太郎さんの小さな声が、あたしを引き止める。

「俺、怪我してるし、手……」

「……」

「水とか、飲めないじゃん?」

「……は?」

 思わず、振り向いてしまう。なに言ってんの? この人。

「喉、乾いた」

 なんともない方の手で指さす、ペットボトル。

「……!」

 左手はなんとも無いだろうが。

 ベッドサイドキャビネットの上の、ペットボトル。さっき店長が置いていったお茶。ふ、蓋を開けてあげれば良いだろうか。

 肩にかけていたリュックを降ろす。でも、なんだか動けなくてそこに立ち尽くす。

「……自分で開けてください」

「薄情者」

「でも、迷惑だし……」

「強引だしな」

 痛いところを突かないで欲しい。自分でも、分かってるもの。

「そ……関係者じゃないし、居ても役に立たな……」

「帰るなよ。強引に、居たらいいじゃん」

 包帯が巻かれていない左腕を、頭の下に入れて、光太郎さんが体の向きを変える。

「責任、取ってよ」

「なん……」

「こっち来て」

 呼ばれて、あたしはおずおずと近付く。病院の、独特な匂いと温度。それすら通り越して、あたしの顔は熱くて溶けそうだ。


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