恋ごころトルク
 バン!

「終わった?」

「ぎゃあ!」

 光太郎さんに覆い被さっていたあたしは、背後の物音と声に驚いて、仰け反って退けようとした。でも、光太郎さんが腰を掴んでいたせいで、退けたのは気持ちだけだった。なんなの、いったい誰!

「……なんだ、急に入ってくるなよ」

 病室入口のスライドドアが勢いよく開いた音だった。だめだよ、病院内では静かにしないと! そして、この声は。

「兄貴……なんてエロい体勢をさせてるんだ。真白さんに」

 あ、あたし、エロいの?

 病室に入ってきたのは、なんと誠太郎さんだった。そっか、店長から連絡が行ったんだ。身内だもの、当たり前だよね。それを差し置いて、あたしが……あたしが……。穴があったら入りたい。

「ショップから連絡が来たよ。びっくりした。でも、指のヒビだけだって」

「おかげさまで」


 は、離してくれないだろうか。この格好のまま、話を始めちゃうのか、この兄弟は。

 あたしが座っていたパイプ椅子に、そのまま座る誠太郎さん。と言っても、あたしの姿勢ではちゃんと見えないんだけど。光太郎さんの左腕があたしの腰をがっちりと抱き寄せているから。

 嬉しいんだか悲しいんだか。なんだかよく分からない。

「みんな、元気なのか?」

「ああ、元気だよ。安心してくれ」

「お前は? その、調子は」

 光太郎さんの腕に、ちょっと力が入ったのが分かる。髪の匂い。ちょっと埃っぽい匂いがする。

「あーあ。もう」

「なんだよ」

 誠太郎さんの呆れたような声に、光太郎さんが苛ついたような声を出す。

「あのさ、彼女の前でそういう弱いところ見せてさぁ」

「……そんなことねーよ」

 か、彼女。いやそれよりも、二人の顔色が見えないから、どんな感じでやり取りしているのか、全く分からないよ。喧嘩は、しないで欲しい。

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