恋ごころトルク
もうだめかもしれない。好きだと思う。光太郎さんを好きだって思う。
エンジン音が胸に響くよ。あたしの想いも鳴ってる。回転して、全身に想いを巡らせてる。
曇った空はクランクの練習をするあたし達を包んでいて、なんだか意地悪して太陽を隠しているみたい。そんな風に思ってしまうなんて、浮かれすぎかな、あたしは。
1時間ほど、クランクや半クラッチ、ニーグリップの練習をして、今日の光太郎さん教習は終わった。仕事中なのに……本当に申し訳ない。
喉乾いたでしょ、そう言って冷たいお茶のペットボトルをくれた。
「すみません。お仕事……」
「ああ、良いんだ」
そう言ってるけど、一応仕事中でしょうから、良いわけないと思うけどね……。
コンクリの上に光太郎さんが腰を降ろしたから、あたしも隣に座る。自動車学校に行く時は、汚れても良いようなデニムで行ってるし、地べたに座ったって構わない。
「光太郎さん、なんでバイクに携わる仕事してるんですか?」
あたしは何気なくそう問いかけてみた。
「好きだけでできる仕事じゃないけどね。でもまぁ、好きっていうのが根底にあるっていうか」
「毎日バイク触ってるんですもんね」
「車の仕事してるヤツでも同じだけどね」
「そうですよね……」
あたし、別にお弁当が好きだからお弁当屋で働いてるわけじゃないもんな……好きだけど、仕事ってそういうことじゃないよね。うまく言えないけれど。
「5個下の弟が居るんだけど……小さい頃からバイク好き兄弟で。まぁそこから」
「へぇ、弟さんもバイク乗ってるんですね」
「やー……乗ってないけど」
「そうなんですか」
「まぁ、いろいろあって」
「はぁ」
誤魔化すってことは聞かれたくないってことだ。深く聞かないでおこう。
あたし達からちょっと離れてエイプ50が止まっていて、こっちを見ているみたい。そこからまたちょっと離れたところに、練習で使ったパイロンが重なって置かれている。
さっき出来たこと、次の教習でうまく出せると良いな。だって前に進まないもの。