恋ごころトルク
 駅前のスーパーに寄ってからアパートに帰ろうと思って、いつもは通らない道路に自転車を向けた。近くの公園を通る、狭い道路。

 今晩、何にしようかな。まだ昼間だけど、ビール飲んで寝ちゃおうかな……いやいや、だめだろいくらなんでも。何があるか分からない。どこからか電話が来るとか、メール来るとか。お店がいま大変なことになっているから真白ちゃん来て!とか。……いやだな、それ。実家から連絡……あまり良い予感がしないからそれも嫌だ。一番良いのは友達からの連絡と、あと光太郎さんからのメールとか。メールのやり取りはまだしたことが無いなぁ。

 今日はミナセに行かないと決めていたから、まず帰ろう。さっきはふて寝しちゃおうと思ってたけど、帰ってご飯食べたら考えが変わるかもしれない。その前に買い物……と。


 あれこれ考えながら、公園にさしかかる。

「あ……」

 木陰に、見覚えのある黒いスクーターが止まっている。あっと思って停止したけれど、自転車のブレーキは、意外にも大きな音を出した。油を差さないとだめかしら?

「あれ」
「あ」

 すぐ目の前のベンチだった。赤いつなぎの人が座ってて、ブレーキの音に気付いて振り向いた。柵の内側と外側。座ってる光太郎さんと、自転車に乗ってるあたし。

「奇遇だね」

「……ハイ」

「今日、お休みだったって」

「……ハイ」

 公園の防護柵越しに、なんだかぎこちないやり取り。こんなところで会うなんて。

「お、お昼でしたか」

 ベンチの上に、ビニール袋とうちの店のお弁当容器。お茶のペットボトル。

「ああ、うん。今日は豚しょうが焼き丼にした」

「いつもそれ、です」

「そうだった」

 笑うと目尻に皺ができて、あたしはそれがとても好き。伊達にいつも盗み見てないのです。

 光太郎さんは、まだお弁当に手を付けていない様子だ。割り箸も出ていない。

「教習の帰り?」

「はい。夕飯の買い物して帰ろうと思って」

「夕飯のメニューは?」

「光太郎さん、なに食べたいですか?」

「茄子、茄子が食いたい」

「なす……」

 茄子か。買って帰ろうかな。自転車のスタンドを立てるかどうするか悩む。


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