恋ごころトルク
「会えなくなるかもしれないし」
「どっか行くの?」
「いいえ、行きません」
「なんだ」
「言わないと、後悔するから……」
それ、さっき言ったじゃん。
「ごめんなさい。唐突でした」
「いや……」
沈黙が怖いとよく聞くけれど、いまは黙っていた方が、これ以上の怪我をしなくて済むのかも。あたしは既に大怪我をしている気がする。
鳥の鳴き声と、風が公園の木々を揺らす音。ここには、あたし達以外、誰も居ない。
「教習、いまどのへん?」
沈黙を破ったのは、光太郎さんの方だ。
「スラロームとか一本橋あたりです。そろそろ1段階終わり」
「そっか」
「クランク、スラローム、一本橋、S字で急制動。このへん壁になりそうです」
「誰しも通る道だな」
光太郎さんはゴミをベンチの端に置く。あたしの自転車と光太郎さんのスクーターは、後ろにあるから、このままの姿勢じゃ見えない。
「光太郎さんのあのスクーター、なんて言うんですか?」
「ホンダのジョルノ。近所チョイ乗りするにはああいうのが一番だよ」
後ろのスクーターに目をやる。ちょっとボロっちいけど、黒いスクーターは光太郎さんに似合っている。
「二輪免許は?」
「大型持ってるよ、一応」
「あの、ドラッグスター乗ってるんですか?」
「違うけど」
「似合ってるのに」
「嫌いじゃないけど。クルーザータイプも格好良いしね」
「光太郎さんが乗ってたから、ああいうのに乗れるようになりたいと思って」
そう言ったら、光太郎さんが笑いながら下を向いてしまった。なんだろう。なんか変なこと言ったかな。リュックを抱えた腕にぎゅっと力を入れた。