専務が私を追ってくる!
「専務、下を向くと酔いますよ」
私の運転がアレだから、親切心で言ったつもりだ。
「すぐ済むから平気だよ。郡山さんこそ、俺に見とれてると事故するよ」
はぁ? ちょっと見ただけだし。
かっこいいからって見とれてなんかないし。
ちゃんと前を向いてます。
第一、見とれていられるほど運転に余裕がない。
私だって本当は、その横顔を見ていたいのだ。
心の声をオフにして、スマートにスルーする。
「何かお勉強されてるんですか?」
「ううん。これは俺の仕事ノート。その名も“おさむ帳”」
「おさむ帳?」
「そう。これからやりたいこととか、やらなきゃいけないこととか、何が必要かとかを書く用。手帳じゃ足りないんだよ」
赤信号で止まったのを機に、ちょっとだけ横を向いて覗いてみる。
書いていることまではわからないが、綺麗に整理されているのがわかる。
「几帳面なんですね」
「あー、それよく言われる」
「A型ですか?」
「うん。郡山さんは?」
「私もA型です」
信号が青になり、発車。
彼はおさむ帳から目を離し、通りの景色を眺め始めた。
数百メートルごとに、うちのバス停がある。