専務が私を追ってくる!
バカか、私は。
自分から正体を明かしてどうするの。
仕事がやり辛くなるだけだ。
信用だって失いかねない。
修自身、脈がないとわかっているわけだから、このまま『彼女とは会えませんでした』で終わらせればいいのよ。
それで諦めるって言ってるんだから。
……でも。
修はきっと、私をあの店で待っている。
再会したことにも気付かずに、健気に私を探している。
鏡を見ると、修と出会った頃の私の顔が映った。
西麻布のバーのにおい、酒の味、六本木通りの濁った空気、タクシーの真っ白なシート、赤坂のホテルの夜景。
彼の腕の温度、つるんとした唇、逞しい肩の筋肉、ひとつになった時の感覚。
あの夜、彼は私を抱きながら夢見ていた。
この性格の歪んだ酷い女との未来を。
鮮明に思い出されて泣きそうになった。
たまらなくなって立ち上がる。
「もう!」
私は必要だと思った最小限の荷物を持って、家を飛び出した。