専務が私を追ってくる!
N市に本社を構える民間のバス会社、東峰(とうほう)バス。
バス事業だけでなく、ホテルやショッピング施設、広告事業などもやっていて、県内ではまあまあ大きい会社だという。
面接は人事の人たちと社長と、1対4で行われた。
「江森町か。最寄りバス停は江森西? それとも東?」
「西の方です。ご存知ですか?」
「昔近くに好きだった子が住んでてね。青春の思い出だよ」
「素敵ですね。母の実家なんです。その方、母の知り合いだったりして」
「君のお母さん、旧姓は?」
「本田です」
「ええっ? もしかして、佳子(よしこ)ちゃん?」
「そうです、母は佳子です!」
面接時、なんと偶然にも社長と母が高校の同級生だったことが判明し、初恋の人の娘として、すっかり気に入られて採用が決定。
私は無事に「地味で普通な事務員さん」として、新しい私をスタートさせることに成功した。
何も知らない業界の仕事やこの地方の方言、ほとんどやったことのない家事を覚えるのは大変だ。
だけど以前のように美しさや裕福さを躍起になって競ったり、勝つために多くの金とエネルギーをつぎ込んできたことに比べれば、なんてことない。
このままここで穏やかに暮らせば、きっと私の性格も改善していくだろう。
思い切って私を知る人がいない土地へ移住して正解だった。
私は幸せへの糸口を掴んだのだ。