線香花火
「…相変わらず、泣くのが苦手だな澪波は。俺の前だとギリギリ、かなぁ。」

 そう言って背中に腕が回るとようやく聡太が本当にいることを感じられる。一番最近で会ったのは10月中旬だった気がする。そう考えると1ヶ月半ぶりの再会が自分の誕生日だなんてロマンチックにも程がある。ポンポンとリズムよく頭を撫でられるとより一層涙が出てくるのだから困る。嬉しいけど、困る。

「びっくりした?」

 頷く。

「迷惑だった?」

 答えを知っててわざと訊いてるとわかっていても、首を横に振った。

「…嬉しい?」

 小さく頷いた。

「会いたかった?」
「…会い、たかった。」
「俺も。なんか澪波ちゃん、すっげーいい匂いするんだけど。」

 頭上に鼻があてられて、くんくんという音までする。

「…前世、犬なんじゃないの。」
「そうかも。俺って結構尽くすタイプだし。澪波ちゃんの忠犬です。あ、そろそろ泣き止んだ?」
「…うん。もう大丈夫。」
「そうやって目をこするのはだめ。あと鼻真っ赤。…食べちゃってもいいの?」
「っ…だめ!聡太はそう言うと本当にやるからなぁ…。」
「よく知ってるね。」
「一番の被害者だもん、私。」
「ふはっ、言えてる。」

 ゆっくり距離を取って聡太から離れる。目も鼻もこすらないようにして、通常の『小林澪波』に戻していく。

「目、痛くない?」
「うん。大丈夫だよ。」
「とりあえず泣いちゃうくらいにはサプライズ成功ってことで良かった。」
「…びっくりだよ、ほんと。」

 前言撤回しようと思う。何も予定のない誕生日ではなくなった。
―――聡太が来てくれたから。
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