線香花火
* * *

「いきなりごめんね。でも、話したかったのは本当なの。」
「…はぁ。」

 まだしっくりきていないという顔だ。それも仕方ない。澪波と大輝の接点はほとんどと言っていいほどない。ただ、澪波が単純に大輝に興味をもっただけの話。

「自己紹介がまだだったね。私、小林澪波。聡太と幼馴染で、すごーく昔に由起子ちゃんとも遊んだことがあるんだけど、大輝くんとはなかった、のかな。」
「そう、だと思います。」
「…もしかして人見知り?」
「…まぁ、そんな、…感じっす。」
「由起子ちゃんと一緒だと、コロコロ表情が変わるのにね。」
「違っ…!」
「でもそれは由起子ちゃんも同じだけど。」
「え?」

 目まぐるしく変わっていく表情の中に変わらないものがあった。それは、あの時の澪波にとって眩しすぎるものだった。ただ、純粋に互いが大事だと、目はそう語っていた。それがあの時、どれほど刺さったか。

「…いいなぁ、高校生。」
「どこが、ですか?」
「全部がキラキラしてるんだもん。」
「そんなこと、…ないと、思いますけど。」
「そんなことあるよ。今更だから言っちゃうけど、一番最初に大輝くんたちとすれ違ったとき、実は結構辛かったんだからね。」
「辛い?」

 澪波の言わんとすることが大輝には全く予想もつかない。辛いって一体何のことだろうか。

「あの時ね、失恋したから戻ってきたの。こっちに。」
「は!?」
「お、段々素のリアクション。敬語じゃなくていいよ。敬語使われるような人間でもないから。」
「いや…すいません。」
「いいのにー。あ、話を戻すけど、失恋したての頃に二人の姿って、結構目に毒だったんだよ?」
「目に毒…ですか。」
「あ、悪い意味じゃ全然ないの。むしろ可愛い恋だなぁって。」
「っ…。」

 大輝の中での澪波が〝恥ずかしいことを平気で言う人〟に変わった瞬間だ。
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