雨のち晴れ


「正樹、今日はありがとう。
マスターのこと…少し気持ちの整理がついたよ。」

「そうか。」

「もちろん、悲しくないって言ったら嘘になる。でも正樹と過ごす中で落ち着いたの。
ちゃんと前を向いて進もうって。顔上げて進もうって。マスターもそれを望んでる。」

「そうだな。でも無理はするなよ。俺がいつでも傍にいる。」

「うん…」

温かな優しい正樹。
私はそんな正樹の目を真っ直ぐと見つめた。


「正樹、傍にいてくれてありがとう。」

なんだか照れ臭いけど、正樹が今いなかったら、私はどうなっていたのかな?
そう考えると、ふと怖くなる。

「俺の方こそ、サンキューな。」

ふわっといつものように笑う正樹。


穏やかで落ち着く正樹との時間。

私は今日1日で正樹とのこの時間が、とてもかけがえのないものだということを改めて知った。


きっとひとつひとつは儚くて脆い。

この時間だっていつまた失くなってしまうか分からない。

だからこそ、この時、一瞬を大切にしたい。

それをマスターが教えてくれた。


「本当に美味しいな。」

このカルボナーラの味、忘れない。

またひとつ、カルボナーラに思入れが深くなった。

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