美狐はベッドの上で愛をささやく
ここに慣れた人間でなければたちまち道に迷ってしまうくらい、道は拓けていない。
暗いところは嫌い。
『自分』がわからなくなってしまうから……。
だけど、わたしが恐れるのはこんな闇じゃない。
もっと深い。
もっと暗い、闇。
わたしは自分を守るようにして、両手を腕に巻き付け、ひとり夜を歩く。
12年ぶりに再会した家族と別れ、夜の道なき道を15分くらい歩くと、見えてくるのは大きな庭があるあたたかな家――。
ここは、父とわたしが暮らす家。
だけど、父が亡くなった今、この家には、わたし以外誰もいない。
父がわたしを拾ってくれた当初は、和夫さんも、奏美さんも、美紗緒さんも、誰もわたしを邪険にはしなかった。
生まれつき、色素が薄い髪や白い肌をしたわたしを気味が悪いとも言わず、容姿は誰だって違うものだし、個性があって素敵だと、わたしを受け入れてくれた。
それに、家にもよく泊りに来てくれた。