美狐はベッドの上で愛をささやく

ここに慣れた人間でなければたちまち道に迷ってしまうくらい、道は拓けていない。





暗いところは嫌い。

『自分』がわからなくなってしまうから……。


だけど、わたしが恐れるのはこんな闇じゃない。


もっと深い。

もっと暗い、闇。





わたしは自分を守るようにして、両手を腕に巻き付け、ひとり夜を歩く。


12年ぶりに再会した家族と別れ、夜の道なき道を15分くらい歩くと、見えてくるのは大きな庭があるあたたかな家――。


ここは、父とわたしが暮らす家。



だけど、父が亡くなった今、この家には、わたし以外誰もいない。



父がわたしを拾ってくれた当初は、和夫さんも、奏美さんも、美紗緒さんも、誰もわたしを邪険にはしなかった。


生まれつき、色素が薄い髪や白い肌をしたわたしを気味が悪いとも言わず、容姿は誰だって違うものだし、個性があって素敵だと、わたしを受け入れてくれた。


それに、家にもよく泊りに来てくれた。


< 15 / 396 >

この作品をシェア

pagetop