美狐はベッドの上で愛をささやく

人を殺そうとした醜くて汚いわたしでも、きっと、迎え入れてくれるだろう。






――会いたい。

彼の傍に歩み寄り、広い胸にすがりつきたい。


だけど、それはかなわない。




わたしは誰よりも――何よりも――醜いから……。


こんなわたしは、彼に相応(フサワ)しくない。


だから……。







……さようなら。






彼の視線が、草場に上手く身を隠しているわたしから逸(ソ)れた隙(スキ)を見計らって、わたしはそこから急いで離れた。



もう、彼と会うことはないだろう。


最後に、あなたの姿を見ることができて良かった。





ばいばい、紅(クレナイ)さん。


今まで、ありがとうございました。







「っひ……っく……」


……視界が歪(ユガ)む。


わたしは静かに流れる悲しい涙を拭わずに、倉橋さんがいる場所へと走った。


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