不機嫌主任の溺愛宣言
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“恋人を怒らせる”と云う初体験をした忠臣はそれから数日、焦燥と罪悪感でみるみるやつれていった。朝の送迎はかろうじて続けているが、一華の態度はあきらかにつっけんどで、笑ってくれないどころかまともに目も合わせてくれない。
彼女の怒りを早く収めねばと云う焦りと、けれどやっぱり自分の理性が信じられぬ思いと。遅い初恋を迎えた男にとって難解すぎるこの状況は打つ術が無く、食事など悠長に喉を通る筈が無かった。
時間が経てば経つほど状況は悪化していく。これ以上彼女を怒らせたままにしておくと別れを切り出されかねない。
そんな目の前が真っ暗になりそうな未来を予感して、忠臣は今日もまた蒼白な顔をして眉間に皺を刻むのであった。
そんな日々のとある夜。PM8時過ぎ。
「主任、何も言わずこれを受け取ってください。そして有無を言わさず腹に流し込んでください」
右近はコンビニの袋に入ったエネルギー補充ゼリーと栄養ドリンクを上司のデスクの上にドンと置いた。忠臣は色の悪い顔を上げると『なんだ?』という表情を浮かべて右近を見る。
「何があったか知りませんが、頼むから食事くらい摂って下さい。主任にぶっ倒れられたら皆が困るんですよ。側でヒヤヒヤしながら見てる僕の気にもなって下さい」
そう口にしながら右近はゼリーとドリンクの蓋を開け、グイグイと忠臣の顔に向かって差し出した。心優しい部下は上司のあまりのやつれぶりに強硬手段を取る事を決意したのだ。
そんな部下の心遣いに、忠臣は申し訳無いやら自分が情けないやらでますます嘆きたくなってくる。押し付けられてくるゼリーとドリンクを受け取って
「すまない、心配を掛けたな。反省する。人に指示する立場の俺が自己管理も出来ていないようでは示しがつかないな」
忠臣は薄く唇を微笑ませると、それをありがたく喉へと流し込んだ。
その姿を目にし、右近もようやく安堵の笑みを浮かべる。部下の心尽くしの栄養補給に、忠臣もどこか気持ちが和らいだ時だった。
デスクに置いていたプライベート用のスマートフォンから電話の着信音が響く。その発信相手を見て忠臣の鼓動が跳ねる。
「もしもし?」
椅子から立ち上がり慌てて通話ボタンをタッチすると、流れてきた声の尋常じゃ無い様子に彼の表情が険しくなった。
『忠臣さん……助けて!』
「一華!?」