不機嫌主任の溺愛宣言
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時間は15分前に遡る。
業務を終えた一華は着替えを済ませると福見屋デパートを出て大宮駅へと向かっていた。いつもなら仕事を終え表情にもどこかホッと安堵が見えるのに、今日の彼女は眉間に一本皺を刻んでいる。
――今日も忠臣さんは私を避ける理由を言ってこなかった。もう、変なところ頑固なんだから!それとも、そんなに言いたくない事なの?……私、よっぽど嫌われちゃったとか…?
怒りと、不安と。一華の胸にふたつの感情が渦まく。
忠臣の求愛から始まったはずの恋はいつしかすっかり一華のペースを飲み込み、気が付けば彼女は忠臣の事を考えてばかりいた。自分も確実に恋をしている、彼に――そう自覚し始めた矢先に避けられ始めたものだから、一華は嫌でも忠臣のことで頭を悩ませなくてはならなかった。
……もう1度、話をしてみようかな。今度は感情的にならずに、話してくれるまでちゃんと待とう。
そう考え一華が鞄からスマートフォンを取り出した時だった。
「見ぃつけた。久しぶりぃ、一華ちゃん」
怖気が立つ様な粘っこい声を背後から掛けられ、驚いて振り向くと同時に手首を掴まれた。
「っ……加賀さん!?」
見開いた一華の目に映ったのは、忠臣に救われた揉め事以来、数ヶ月ぶりに姿を見せた派遣会社の加賀。それも一目で分かるほど様子がおかしい。無精髭にボサボサの髪、妙にやつれて落ち窪んだ眼は充血してギラギラしている。
明らかに普通じゃないその様子に、一華の本能が危険だと告げた。
――逃げなくちゃ……!
咄嗟にそう判断したものの一華の手首は強い力で握られ身動きが取れない。
「なんだよ逃げる気かぁ?邪険にするなよぉ、こっちはお前のせいで散々な目にあったって言うのによぉ」
加賀はもう片方の手で一華の肩を掴むと、無理矢理に抱き寄せながら力尽くで人気の無い路地裏へと連れ込んだ。